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名古屋家庭裁判所 昭和44年(家)1993号 審判 1969年9月12日

国籍 韓国 住所 名古屋市

申立人 除昌美(仮名)

国籍 韓国 住所 名古屋市

未成年者 除敬(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一、本件申立の要旨は「未成年者除敬は、申立人と夫除康礼夫婦の長男として出生したが申立人ら夫婦は、すでに離婚し、現在申立人が、除敬を監護養育している。申立人と除敬は、このほど帰化手続をとる予定のところ、韓国法によれば、除敬の法定の親権者は父親除康礼だけである。しかし、同人は、現在無期懲役刑の云渡確定により、岐阜刑務所で服役中であり除敬に対する親権を行使することができない。よつて、実母である申立人を後見人に選任する旨の審判を求める」というのである。

二、申立人提出の外国人登録済証明書二通と、申立人本人の審問の結果、ならびに別件当庁昭和四四年(家イ)第二五八号離婚等調停事件記録中の各資料によると、つぎの事情が認められる。すなわち、申立人は、除康礼と昭和三二年八月五日婚姻し、同月一四日長男除敬が出生した。

ところが申立人夫婦は、昭和四四年六月三日調停により離婚し、以来申立人が除敬を監護養育している。除敬の法定親権者は除康礼であるが、同人は、昭和三四年一月六日無期懲役刑の云渡確定により岐阜刑務所で服役中であり、除敬に対する親権を行使できない実情である。また、実父除康礼の両親は日本に渡来したことはなく、現在韓国での所在はもちろん、その生死さえ明らかでない。申立人の両親はすでに死亡し、未成年者除敬の直系血族にあたるのは、除康礼をのぞいて申立人しかいない。以上の事情が認められる。

三、上記認定の事情からすると、父である除康礼は、親権を行使できないから、法例二三条一項により本国法である韓国民法九二八条による後見が開始したと認められる。そして未成年者除敬の直系血族としては、申立人をのぞいては、上記認定のとおり、すでに死亡したかまたは親権および後見が行使できない実情にあるから、同法九三二条、九三五条により申立人が法定後見人となる、と解するのが相当である。

かようなわけで、本件未成年者には、韓国法上申立人が当然法定後見人となり、その権限を行使できることになるから、さらに家庭裁判所が後見人を選任する必要がない。

よつて、本件申立はその理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 加藤義則)

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